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田母神・空幕長の論文問題
2008-11-02-Sun  CATEGORY: 安全保障
 自衛隊の幹部の発表した論文をめぐり政治的な問題が起きている。自衛隊では過去に政府見解とことなる発言での問題があったし、政府には閣僚の不適切発言があったばかりだ。なぜ繰り返すのだろうか

1 田母神・空幕長の論文問題

 まずは事実関係から、問題の論文の概要から経緯までもっとも詳しく伝えているのは毎日新聞 2008年11月1日 東京朝刊の「田母神・空幕長更迭:あの空幕長がまた 過去にも暴言「そんなの関係ねえ」という記事だ

 記事の情報によると、ホテルとマンション事業を手がけるアパグループが主催した「真の近現代史観」に田母神(たもがみ)俊雄・空幕長が応募し最優秀藤誠賞(賞金300万円他)を受賞した論文である。そもそもの発端はアパグループのCEOである元谷外志雄氏が「報道されない近現代史」著書を出版その趣旨に賛同する活動のひとつとして論文の応募を今回初めて行ったものだった。論文の審査委員長は渡辺昇一氏である。論文はアパグループのホームページでPDFの形で公開されている。

 記事によると、論文の投稿前自衛隊内部で問題になると考え投稿を見合わせるよう水面下で説得したようだが失敗。「防衛省は内規で、隊員が職務に関する意見をメディアなどで発表する際、文書で上司に届けることを求めている。空幕長の場合、官房長に連絡する必要があった」が、田母神氏の防衛大臣に次ぐ空幕長の立場から「「個人的な研究内容の結果を投稿する」とし正式な文書による連絡は不要と考え、背広組への連絡は口頭で済ませた」という。

 「制服組幹部は「ユーモアを交ぜながらも、どこまで制服組の発言が許容されるかのパイオニアになろうと瀬踏みしている印象があった。すごいなと思う半面、いつか失敗するのではと心配だった」と話した。」と記事にあり、問題が田母神氏個人の暴走ではない構造的な問題があることが浮かび上がってくる。田母神氏は4月の記者会見でも誤解を招く発言があったという

 論文投稿とその内容が政府に伝わり、田母神氏は「自分の思いを書いた」と浜田防衛相らに釈明したというが、更迭が決まったというのがこの問題である

 そして、自衛隊についてはインド洋での給油活動の継続をめぐる議論をしている最中で、麻生首相が解散を延期して与野党の対決が強まるなか政府ないで起きた問題であることから、政府・自衛隊関係者には逆風で、早速野党からは激しい抗議が起きている。

2 問題の整理

 ここで問題を整理しよう。私は番号の大きいほど問題は根深く深刻と考えている

 (1)論文投稿について正規の手続きを行わなかったことについて
 (2)問題発言を繰り返す幹部の首相の任命責任
 (3)自衛隊に対する統制、幹部の行動に対する文民統制について
 (4)現役の自衛隊幹部が私的な意見を実名のまま行ったこと
 (5)自衛隊内部で今回の例に見られるような意見を歓迎する空気があること
 (6)近現代史の見直しを求める勢力と論文を募集の活動について

 (1)手続きについては一隊員の行動でなく空幕長との立場の人が個人的な研究と判断してしまえば、意味をなさない。これは内規で済ませる問題でなく、法律で現役である間は歴史・防衛・軍事にかかわる内容は政府の承認を必要とする形にしないと意味がない。
「私的研究」といえるのは自衛隊の職務と無関係の気象に関する研究とかの場合だろう。
 (2)首相の任命責任については監督責任はあるが、野党が求めるような不信任とか問責を問うのは正しくない。問題があるとすれば首相が田母神氏の過去の言動について承知の上任命している場合だろう、知らなかったというのは言い訳にしかならず、首相に正しい判断をさせるような情報を出せない側に問題がある
 (3)これも野党が指摘するだろうが、政府による文民統制ができてなから不適切な発言でるといいたいのだろうが意味がない。
文民統制とは文官が武官の行動を指揮し、政府の意図に反した軍事行動をしないというものであって、自衛官の個々の思想信条まで統制することなど不可能だからだ。つまり具体的な行動、今回のケースでいえば論文の発表を具体的な法を根拠に律することができるかである。だれしも組織を統括する立場にたてば自然に政治的な力を持ったように感じるだろうが、官僚特に自衛官は法律で警察と共に武力行使を許された存在であることから厳しく言動は制限される。教育するなら思想でなく具体的な行動で律するべきで、それができないなら専門教育を受けた報道官のみが発言するような体制が必要だろう
 (4)これは(3)と関係するがせめて今回の投稿も匿名であれば政治問題とはなっていない。公人となった人はいかなるときも実名での行動には責任があると自覚してもらうしかない

3 自衛隊に蔓延するフラストレーション

 先のニュース記事でも田母神氏の発言を歓迎する意見があることが取り上げられたが、ここが自衛隊の最大の問題点だろう。
そしてそれは、政治家と国民が安全保障の現場の現実をいかに理解していないかに起因している。
 自衛隊はその役割ゆえに独自の閉鎖的な世界を形作っている、それは先般特殊部隊で発生した訓練による死亡事件が、相撲界で起きた事件と酷似していることからも推測できる。
 自衛官になろうという人物は公のために働きたいという志を持つか、親が自衛官でるなど家庭環境による人が大半だろう。入隊後は厳しい訓練と専門知識を習得して責任の重い任務につくが、現場で感じた問題を発言する機会はなかなか与えられない。そんな環境にあれば志を持ちまじめに考える人ほど意見がでてるく。そんな場に田母神氏のように本音とも思える意見を言う人が現れれば歓迎したくなるのも当然のことだろう。だれしも自分が属する組織が過去に犯罪者扱いされることを望むはずはない。
 防衛を行うには、発生しうる事態を想定し作戦を計画し、それが実行できように装備と訓練を行わなければいけない。しかし世間や政治家の一部にはそんなことを考えること自体戦争につながると誤解する風潮がある
 その矛盾を自衛隊に対する無理解がフラストレーションとなり、繰り返し噴出す原因となっているのではないだろうか。この解決には先の戦争と憲法そして自衛隊のあり方をめぐりオープンな議論がなされる以外道はないように感じる

4 近現代史の見直しを求める勢力の影

 日本は先の大戦を軍部の暴走が原因とし国民は被害者意識で納得しようとした。その結果戦争にいたる歴史と原因も深く追求することなく、他を一切封じ込めてきたことに原因があると考えている。
 しかし歴史はそんな単純なものでない、その意味で近現代史を見直すことは歓迎すべきことである。であるがここでいう「近現代史の見直し」とは今の公式見解をアメリカのよって押し付けられた「自虐史観」として戦犯として断罪された人々の名誉回復を目指し、大国日本を復活させようというものである。田母神氏の考えは個人的でかつオリジナルなものでなく、社会のなかで一定の支持層をもつ人たちの考えに連なるものである点が指摘されなければならない。今回の懸賞論文を主催した元谷外志雄氏、その審査委員長を務めた渡辺昇一氏は「日本国憲法無効宣言」なる本を出している人物である。

 田母神氏の今回の論文は全9ページで昭和20年までの行動が「侵略」でなかったとの主張を展開している。しかし、参考文献などは示されず、本文中にいくつかの著書の意見を引用しているだけのもで、近代日本の歩みがアジア民族の解放であり、どこの国よりも規律正しく日本が関与した国々に感謝されていると自身の思いを披瀝しているだけである。論文に価値があるとすれば著者が現役の空幕長であることに尽きる。
 今年9月中山前国交相の発言が問題となり大臣の辞任劇があったが、今回の一件もインド洋での給油継続など微妙な政治情勢のなかで行われた懸賞論文であり、田母神氏の行動は単なる不注意などでなく確信犯的な行動ではないかと思わせる。
 彼の主張が正しいかは不明だが、日本が戦争を嫌い経済にまい進することで封印した対立がいまだ根深く存在することが日本の行方を不透明にしていることは間違いないだろう

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